ろまんくらぶ「仮面の天使」170

煌めくライトの影の中、ひとり茉莉はグラスを傾けていた。
「お待たせいたしました。ミックスナッツとハニーラスクでございます」
「えっと、アレキサンダーもう一杯」
「かしこまりました」
少し心配顔になるが、黒服は何も言わずにオーダーを受ける。
茉莉はハニーラスクを手に取ると口に運び、カリッと白い歯で碎く。口の中でラスクを噛みながらぼんやりと考え始める。

どうしたらいいのだろう。教授に真剣交際の宣言をされてしまった。でも、茉莉は躊躇している。それに健のこと、、。いつもは考えないようにしているけれど、一緒に住んでいるのはどうにも都合が悪い。彼の考えていることを想像すると、行動が制限されているように感じる。でも、また教授に頼るとそれはそれで、今度は前のように自由にはならないだろう。教授がふたりの付き合いを真面目に考え始めた今となっては、多分茉莉が週末にふらつくのも嫌がりそうだった。

「あー、何だかうざっ」

「お待たせいたしました」
黒服がグラスをテーブルに乗せる。
「あの、何かお悩みごとでも?」
眉間に皺を寄せている茉莉に問いかける。強いカクテルで少し酔ってきているので彼女は素直に答える。
「んっと、、、その、恋愛って面倒だなって」
「ああ、それは」
黒服はトレーを脇に抱えると腕組みをする。
「ねえねえ、自由を制限されるのって嫌だよね」
「まあ、それは。程度問題というか」
「むむ」
「それは愛する人からってことですか?」
「まあ、そのつきっっている人から」
茉莉はちょっとはぐらかす。
「相手が嫉妬深いってことですか?」
「ううん。そこまでは。で、どう?自分としては」
「私ですか?私は、、、愛情があるなら、多少の縛りはそれも愛の表現かと」
「なるほどね」
「むしろ、愛があれば相手を守りたいと思うので、当然、相手の行動も気になるというか。当たり前な答えで恐縮ですが」
「そうだね」
茉莉は考えこむような表情になる。彼女がそれ以上、何も言わないので、彼は続ける。
「まあ、愛がなければ、どうでもよくなるので、相手の行動も気にならなくなるというか。私のことですが、気にされないと冷たいと感じますけどね」
「うん。それはね」
「まあ、色々言われるのも嫌ですから、そこらへんはさじ加減というか」
「愛情ってお料理みたいなのかな」
「かもしれませんね」


京子と智子はテーブルで茉莉と黒服くんが話しているのを遠目に見る。
「あ、彼は?」
聞かれて京子は首を横に振る。
「彼は確か、彼女いるはずだよ」
「あ、そっか。忘れていた」
智子は舌をぺろっと出す。その仕草がお茶目だったのか、彼女たちの隣の席の男性が話しかけてくる。
「ねえ、君たちふたりだけ?」
「ううん。友達と来てる。他にもいる」
京子は話しかけてきた若い男性を横目で見ると智子の耳元で囁く。
「チャラい」
智子はクスクスと笑い出すと、席を離れる。
「じゃあねー」
ふたりは話しかけてきた男性に愛想笑いをしながら、茉莉のいる場所へ戻る。ライトの中で彼女達の体はキラキラと輝いていた。

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