ろまんくらぶ「仮面の天使」169

アンディの初恋は上海の高校生時代のことだった。よく行く書店で働いていた女性で顔馴染みだった。アンディは彼女に本を探してもらったり、相談にのってもらったりしていた。

ある日、ふとした瞬間にふたりの指先が触れ合い、その時、店員の彼女、リンは顔をうつむかせ、目をそらした。アンディは少し赤くなり、それが始まりだった。

書店の近所のカフェで彼がお茶を飲んでいるところへ、彼女が入ってきた。すぐにアンディを見つけるとリンは笑顔で近づく。
「こんにちは。いつもお店に来てくれてありがとう」
「こちらこそ。いつも相談にのってもらって助かってる」
「ここ、座ってもいい?」
彼女はためらいながらたずねる。
「いいよ。どうぞ」
アンディはためらわなかった。
「ありがとう」

それからふたりは夕方の光が薄れる時間まで様々な本について語り合った。リンはただの書店員ではなく、こよなく本を愛していた。それがまたアンディの心に響いた。そして、夕日の中で、リンの長い黒髪はつやつやと輝いていた。黒く深い瞳が強い印象を与えた。

若いふたりが親しくなるのにそう時間はかからなかった。

夏が来た。暑く強い光の中で、リンの真っ白なドレスが煌めいていた。

今でも時折、彼女の呼ぶ声が聞こえる気がする。
「アンディ、ねえ、アンディったら」
年上の彼女、、。かぐわしい香りがいつも漂っていた。深く繋がったふたりは愛の波間で揺らめいていた。


香り、、。そう。茉莉から漂ってきた甘い香り、、。

バスタブに沈みながらアンディは胸の動悸を抑えられない。

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