ろまんくらぶ「仮面の天使」167

ひとしきり踊ると京子と智子はVIP席には戻らず、そのままバーカウンターに向かう。カウンターの端にあるスツールに腰掛けるとオーダーする。「ジンライムソーダ」智子が軽めのものを頼む。「テキーラのストレート」京子はちょっとした酒豪だった。

「ねえねえ、あのさ、質問があるんだけど」
「何?」
タバコを取り出しながら、京子が短く応じる。
「あの、ほら玉木って人、なんでダメなのかなあって。私てきにはカッコイイなって思ったんだけど」
「あー、あの。あれはやめといた方がいいよ」
「どうして?」
「あれは、そりゃあ、カッコイイけどさ、、」
京子は煙を吐き出す。メンソールの香りが漂う。
「けど?」
「まあ、勘ってのもあるけど、ほら、職業がミュージシャンじゃん」
「え、でも、現代音楽とかってシリアスっぽいけど?」
「そういう見方もあるけど、あのタイプは一癖も二癖もあって、なんかこう、芸のためならなんでもやりそう」
「ああー、そういう」
「そ。芸術のためなら愛情も食い物にしそうな感じがした」
「まあ、そうなのかな」
「それに彼から誘ってきたじゃん」
「だね」
「内気なアーティストタイプでもなさそうだし」
「まあ、ね」
智子はそこでうんうんと納得する。
クラブの音楽はそんな会話をかき消すかの様に一段とボリュームが上がってくる。煌くライトの中で、茉莉はちょっと悩ましげに深刻な面持ちになる。強いお酒を飲んでもどうにも酔えなかった。


彼女達とは対照的にアンディは静かな夜を過ごしていた。庭から部屋へ戻ると、書棚の中から哲学書を取り出す。机の上にのせ、ページをめくるけれど、なんだか集中できない。

少し開いている窓から早春の風が入ってきて、カーテンを揺らす。頬杖をつく彼の顔をスタンドライトが照らし出す。桃の花の香りが漂ってきて、彼の全身を柔らかく包む。気がつくと茉莉のことばかり思っている。急にやってきた感情にアンディは戸惑い、軽い震えを覚える。その感情が徐々に彼の心に広がり侵食してくる。

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