ろまんくらぶ「仮面の天使」161

食事をすませるとアンディは執事を呼ぶ。
「ちょっと散歩に行ってきたいんだけれど」
「お車を回しましょうか?」
「いい。歩きたいんだ」
彼は外の空気を吸いたかった。淡く柔らかな気持ちが少しずつ大きくなってきている気がする。でも彼の責任は若くして軽いものではなかった。今、こんなことがあれば、学問にも差し支えるのではないかと不安に指先が震える。
「どうしよう」
屋敷の玄関を出ると、真面目な彼は悩みが増えそうだと大きな樹の前で立ち尽くす。春先の少し冷たくて甘い空気が彼の髪を優しく撫でていく。彼にとって、これが初恋というわけではない。上海で恋愛経験がなかったわけではない。でも、まさか留学先の日本で、こんな気持ちになるなんてと風にひらひらと舞う梅の花びらを見つめる。

そう。まるで手のひらに降りてくる花びらのように、突然心に現れる。茉莉は、そう、梅というより、バラのようだった。それも真っ赤なバラではなく、淡いピンクの、でもどこか艶やかな、、。謎めいている彼女。噂では遊びなれていると聞いたことがある。でも、彼女の瞳の輝やきはどこか澄んでいる。まるで何かが彼女の内側に隠れているようだった。その輝きに彼は気づいてしまった。

そのことを意識すると彼は拳をぎゅっと握りしめる。

授業で分からなかった箇所を教えてもらうことはできる。そのことは彼女もわかってくれている。でも、生まれてきた想いをどうしたらいいのか。

アンディはそのまま動けず、梅の樹の下に置いてあるベンチに座る。よく手入れされている庭を見つめ、自分の置かれている立場を意識する。大学で博士を終えたら帰国して継ぐ会社に入らなければならない。そう考えると俯いてため息をつく。人生のレールは決まっている。それ以外にはありえないし、自身でもそれを目指してきた。

それなのに、何故、こんなことが、、。

彼はぼんやりと夜空を見つめていた。

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