ろまんくらぶ「仮面の天使」157

その過去の残像が時々、茉莉をじっと見つめているような気が彼女はしていた。何も映し出さない、ビードロのような瞳でじっとじっと。瞳の奥には大粒の涙と痛みが隠されていた。その残像を感じると彼女は憂鬱になってくる。健の存在を意識することを拒否するだけでなく、彼に傷つけられたことさえ認めたくなかった。叫び出したいのを我慢する代わりに、お酒に飲み込まれるまで酔っ払う。酔っ払って踊っていれば、意識さえどこかへ飛んでいってしまう。

電車が止まり、扉が開く。学生達の波に押されるように、茉莉もホームへ降りる。改札を出ると、授業までまだ少しあったので、いつものようにカフェに立ち寄る。

午後のランチを過ぎているせいか、カフェは空いている。気分を変えて彼女はコーヒーではなく、ストロベリーソーダを頼む。トレーに飲み物をのせ、奥の窓際の席に座る。鞄を向かいの椅子に乗せ、コートを背に掛ける。腰掛けてソーダを一口飲むと、窓から外を眺める。明るい日差し、学生達の笑い声、風に揺れる葉の音、、。
「世は事も無し、か」
平和そのものの光景に彼女の気持ちも穏やかさを取り戻す。ソーダの赤い色が陽の光を通してテーブルに映っている。こんな時間が続けばいいなとそう思う、、。

前の授業の終業のベルが鳴る。茉莉はトレーにソーダのグラスをのせ、鞄を手に持つと席を立つ。トレーを返却口に戻し、授業のある教室へと向かう。さっきまでの憂鬱な気分も今はおさまり、さくさくと歩いて行く。扉から入ると、顔馴染みの学生達が前の方の席に座っていた。いつもの席に彼女も座り、教科書を鞄から取り出す。しばらくすると始業のベルが鳴る。

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