ろまんくらぶ「仮面の天使」153

オフィスに入ると健は書類をデスクに広げる。目を通していてもいろんなことが気になって集中できない。仕方ないので、オフィスを出て自販機のある休憩室の前まで来るとコーヒーを買う。ゴトトンと缶が落ちる音がする。
「今夜はどうしよう。帰ろうか、寄り道しようか」
ふと、彼の頭に悪魔が囁きかけてくる。もやもやした気分が肉体を蝕むようだった。こんな状態では甘い誘惑に簡単にのってしまいそうだった。
「どうしたんですか?」
部下に話しかけられる。
「いや、ちょっと、ね」
彼は彼女の顔をまじまじと見つめる。まあまあ可愛い。見ているとその内に自分の視線が彼女の胸元に向いていることに気づく。
「やっべ」
小さく呟くと彼はコーヒーを飲み干す。
「さ、仕事に戻るよ」
「はあい」
何事もなかったように彼はデスクの書類に注意を向けようと努力する。今夜はひとりで飲みに行っちゃおうかなーと茉莉との問題を考えまいとする。

しばらくは彼は仕事に集中していたが、そのうちに昼になる。煮詰まっているので外の空気を吸おうと近所のブラッスリーに入る。春も近いので少し暖かく、テラス席に腰掛ける。
「いらっしゃいませ。何にいたしますか?」
「今日の定食で。あと、グラスワイン」
まだ午後の仕事があるのに、彼は飲みたい気分だった。
「少しならいいよね」
と言い訳をする。ふと目の前を見ると健康そうな若い女性がランチをぱくついている。ほほがピンク色で血色が良く、綺麗だった。そう感じると健は見ないように目を背けた。

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